古いデータは信用できないという話

アジサイは広く庭園などで栽培されているユキノシタの落葉低木で,梅雨時に特徴的な花を咲かせます。
太平洋岸で自生しているガクアジサイが原種で、鎌倉時代に日本で園芸種として育成され,江戸時代にはすでに般的な庭園植物となっていたそうです。中国へはかなり古くに伝わり、ヨーロッパへは中国を経由して導入されました。 

アジサイの毒性・青酸配糖体説は間違い 

さて、このアジサイには毒性があります。
アジサイには青酸配糖体が含まれているとされ、古くから半ば定説のようになっています。筆者の参考にした資料でも、当然のように青酸配糖体による毒性が解説されていました。
それは、 1920 年のアメリカでの家畜の中毒例が元になっていると考えられます。

アメリカノリノキ Hydrangea arborescence L. というアジサイの近縁種によって牛や馬が中毒し、その原因は hydrangin と名付けられた ”glucoside” と報告されています。

しかし、 1963 年になって hydrangin の構造が再検討され、この化合物は、青酸配糖体に含まれるはずの窒素を含まず、植物一般に見出されるクマリン誘導体のウンベリフェロン umbelliferone に他ならないことが、種々の化学分析によって証明されました。
にも関わらず、その後も青酸配糖体説が一人歩きしてしまったようです。平成12年の資料などによると、この青酸配糖体説は定説のように書かれていますので、要注意です。

2008 年に発生した食中毒を機に、毒性成分が再検討されていますが、未だ定かではないようです。その症例とは、下記のものです。
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( 症例1) 2008 年 6 月 13 日、茨城県つくば市の飲食店で、料理に添えられていたアジサイの葉を食べた 10 人のうち 8 人が、食後 30 分から吐き気・めまいなどの症状を訴えた。

(症例2)2008年6月26日、大阪市の居酒屋で、男性一名が、だし巻き卵の下に敷かれていたアジサイの葉を食べ、40分後に嘔吐や顔面紅潮などの中毒症状を起こした。いずれも重篤には至らず、2~3日以内に全員回復した。
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。京都薬大の吉川らは、中国四川省アジサイの葉部・茎部の成分検索を行い、新規青酸配糖体 hydracyanoside 類 6 種を報告しました。しかし、これら青酸配糖体は、京都産のアジサイ抽出物には含まれず、品種によって成分・含量にかなりの差があるとの見解だです。

気を付けよう古い情報

このように、毒性については常に新しい情報にアクセスする必要がありますね。
特に理科系においては、古い情報は時に致命傷になりますので、気をつけましょう。 


【参考】厚生労働省
自然毒のリスクプロファイル:高等植物:アジサイ より

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082116.html

似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
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